横浜IR事業の振り返り講演会 参加報告
カジノを考える市民フォーラム主催による講演会に参加しました。講師は、横浜市がまとめた『横浜IRの誘致に係る取組の振り返り』に外部有識者として登場する神奈川大学法学部の幸田雅治教授と、カジノ誘致問題に詳しい静岡大学の鳥畑与一教授です。2021年横浜市民の多くがカジノはいらないという意見を持ち、カジノの賛否を問う住民投票条例の直接請求のための署名を19万人という活動を展開しました。しかし、その請求を横浜市会は否決、さらには林前市長はこの請求について「意義を見出し難い」と発言しました。これは市民軽視の横浜市の姿を歴史に刻んだエピソードと言えます。カジノ反対の市長の当選によりカジノを回避したとはいえ、計画立案したものが中止に終わったという顛末については、きちんとした総括を市民に向けて報告すべきです。
いつも自分たちが正しいという姿勢を貫こうとすれば、情報の開示を拒むようになります。ごまかしが生まれる温床が横浜市にあると、市民は疑念を抱かざるを得ません。
幸田教授を含む7人の研究チームは、社会的状況が変化した場合の予測や、政策目的を明確にした合理的な根拠に基づき政策立案するというエビデンスに基づく政策形成の視点から横浜IR問題研究に取り組まれ、横浜市にカジノが必要不可欠であるがごとく市民を誘導する横浜市の使う論の不合理を指摘してきました。今回それをまとめて聞くことで、市民として能動的に行政に関わっていく必要があると改めて思いました。
<カジノ推進に勢いづいていた当時の横浜市への疑問点>
- 比較に適さないものを無理やり対象にする? 横浜市が使う比較データは概ねこれに該当していました。横浜市と都道府県をなぜ比較対象にするのか?横浜市は東京のベッドタウン(能力供給都市)、東京は中枢都市。置かれている状況や都市の正確が違うものを比較して根拠とする。
- 事業者から出された情報をそのまま転用している? 投資見込み、観光客数訪問者数見込み、経済効果、雇用効果、増収見込みのすべて事業者情報だった。しかも、この数字がどう算出されたのか、妥当なのかどうかの検証材料がなく、それを求めても「事業者のノウハウや戦略が含まれるため、示せない」という。検証も反証もできない、させない不透明さが際立つ。
- その場しのぎの発言? 「依存症を抑え込める」という林前市長だったが、シンガポールで依存症対策の効果が上がっているといいつつ、シンガポールより緩い規制しかないと明言したり、さらに日本は3分の2が国内客という計画だと言い出して、結局のところ依存症患者が増えるのは日本人か、とかなり曖昧な発言に終始した。結局それは根拠がどこにもない証だったと言わざるを得ない。
- パブリックコメントの活用は推進材料に使えるものだけ? 実に9509件のパブリックコメントのうち、賛成意見は2483件(29%)、反対意見は5585件(66%)だったが、横浜市の素案修正に使われた意見は、賛成意見から287件(74%)も使われており、反対意見からは51件(13%)しか使われなかった。
- 最もやってはいけないことやった? 担当課職員が県内の大学で(もちろん推進の立場で)講義を行ったが、講義終了後のアンケートでは賛成が多かった、若い人はカジノに賛成だということを情報として使った。それまで穏やかに話されていた幸田教授が「推進の立場の行政が、自らの政策のために学生を宣伝に使うことは決して許されることではありません。これは他自利用をしたということです」と怒りをあらわに。
<今後の対策>
カジノIRについて、第三者の検証委員会を立ち上げ、改善方策を打ち出さないと惰性になってしまうけじめをつけて、どう変えるのかということを市民と一緒に市の政策決定のやり方を考えていく必要がある。市民の声を聞いてものごとを決めていくということや、政策形成の真実性透明性が十分できていない課題を向き合う必要がある。
<社会状況の変化はさらに>
・中国は刑法の改正があって、国境を超えてギャンブル客を連れていくことという越境ギャンブルを刑法で禁じることになったので、今後カジノを作っても中国人客を呼ぶことはできなくなる。国交省は、「IR開業するのはいつだと思いますか?29年度ですから、もうインバウンドは回復してますよ」と言うが、コロナだけが不安要素ではない。鳥畑教授は、「カジノに手を染めた自治体はそこから抜け出せなくなる」「そういう意味で今回カジノが中止になったことで泥沼化を避けることができた」と話す。
今回確かに19万人の署名を集め、選挙で私たちの選択をしっかりと示せたことは成果となったけれど、問題はこれで終わりではない。横浜市がどこを向いているのかを確かめるために、いつでも市民は議会を形成する市議との関係、また市長との関係を有権者として関心を持ち続けなければならないと思う。
市民と行政の協働はいつだってなすべき課題なのだから。